会心の面を解く

馬場欽司

平成4年(1992)学連剣友剣道大会
12月13日、東京武道館。

相手を敬う戦いから生まれた気剣体一致の面。そして、気剣体一致を得るためのヒント

国士舘大学鶴川剣道部の師範室にはさまざまな写真が掲げられている。
国士舘大学の恩師・大野操一郎範士の写真もその一枚だが、馬場欽司教士自身の試合の写真が、その中に一枚だけある。平成4年に開催された第3回学連剣友剣道大会における1部決勝・大将戦の時のもので、馬場教士が面を決めた瞬間の写真だ。

当時、馬場は48歳。
その頃は5月の京都大会(全日本剣道演武大会)にも毎年出場していた頃で、馬場の立合になるとギャラリーの数が増し、その立合中は武徳殿が水を打ったように静かになることが多かった。
鬱勃とした気争いから放たれる技が見事に映るのは、その打突姿勢の美しさにもよる。
学連剣友大会は今現在も参加を続けているが、その舞台でも馬場は数々の名勝負をくり広げてきた。

国士舘大学OBチーム対中央大学OBチームの決勝戦。
往年の名手たちによる攻防はいずれも見応えがあったが、試合は副将戦を終えた時点で国士舘大学の勝利が確定。
勝負はついたが、大将同士の一戦は固唾を呑んで見守られた。
対するは、小島礼三郎。長崎出身者同士の一戦である。大将を務めることが多い馬場は、試合の時によくこんなことを思っているといい、それは、この時の心境にも合致していた。

「正しく剣道を学んできた方々と対峙すると、構えたその瞬間から相手を敬って戦えるんです。お互いにそういう気持ちになれば、無心になって攻め合えます。結果、打っても打たれても、後味の悪さは残らず、清々しく感じられます」

試合は馬場が面を二本決めて勝利した。写真は二本目の跳び込み面だが、やはり打突姿勢が美しい一打だった。
竹刀の打突と足の着地が一致するような、まさに気剣体一致の面である。

以下は、「気剣体一致の面」をテーマに語ってくれた馬場教士の談話である。


馬場教士が語る、気剣体一致の面の学び
気剣体の一致していない打ちは、それを打たれても、たまたま出会い頭の交通事故のように偶然当たったという印象が残って感服するまでには至りません。しかし、気剣体一致の面は、打てば記憶に残り、打たれれば感服もします。

打つという気持ちと、竹刀で相手の面をとらえる瞬間と、足の着地---これが一致するのが打突の理想ですが、多くの人は理想は理想で、実際にはできないと思っている節も見られます。
しかし、理想を求め、できるように努力を積まないと、気剣体の一致の味わいを一生体験できないまま剣道人生を終えてしまいます。
少なくとも、私がその理想に近づこうと努力できたのは、若い頃に、気剣体を一致せざるを得ない体験があったからのようにも思います。思い浮かぶのは、以下の三つのことでした。

●引き立て稽古で学ぶ
私が生まれ育ったのは長崎県は五島列島の福江島ですが、父・武雄は試合に臨む少年剣士たちに、いつも「五島の面を打って来い」と言っていました。
帰ってきた子供に対しては試合の勝ち負けには触れることなく、「五島の面は打てたか?」と聞きます。
「一本打てました」と返事があれば、「良かったな」と褒め、「胴を抜かれました」と返事があれば、「今度はいつ打つかを考えたらいい」と助言を送りました。

その父がつねに子供たちにつけていたのが、見事なまでの引き立て稽古でした。
みずからが動きに動き、子供たちに最高の間合から、最高に気合が乗ったところで、最高の打ち方ができるように一打一打を打たせてくれるのです。
しかも、打たせる防具は日本最高峰の防具師が作った面。
「最高の感触を味わわせずして伸びるものか」と惜しげもなく打たせました。
子供たちは、稽古の中で、毎回、気剣体一致の面を引き出してもらえていたのです。

●地べたでの稽古で学ぶ
戦後、進駐軍に剣道が禁止されていた時、私たち兄弟は石田城の境内で石ころを片づけて稽古をしていました。
床板の時のように送り足だけでは躓つまづいてしまいます。
手が先に伸び、足が宙を飛んだまま打つような打ち方では、地面の凹凸に足をとられケガをしかねません。
地べたの上では、打突と踏み込みを一致させないと、稽古にならなかったのです。

現在実施中の五島合宿でも、全山芝山の鬼岳山頂での野稽古を学生たちに体験させています。床板のようにはいかない中で、何かを掴んで欲しいところです。

●刀で糸を切ることで学ぶ
越後流を継承した父は、刀の扱いにも長け、よく私も天井から吊した糸を刀で切らされました。
おもりなどつけていない、ただ垂れ下がった糸です。
うまく刃筋が立てば糸はまっすぐに落ちますが、手の内が悪いと巻き付いて切れるので斜めに落ちます。
また、木綿の糸は切れても、絹糸になるとまた難しい。
そこで得たコツは、切る前の心掛けです。?溜め.といっても良いでしょう。
的確に切るその瞬間を思い描いて気を満たし、切った瞬間にすべてを完結させる技前。
そんな稽古も、気剣体一致のヒントになったように思います。

馬場欽司
(ばばきんじ)

昭昭和19年生まれ。
国士舘大学在学中、関東、全日本学生優勝大会で優勝(各回)。
全日本選手権出場(大学4年時)。現在、国士舘大学教授、同鶴川剣道部部長を務める。
教士七段

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