会心の面を解く

井口 清

平成12年(2000)世界剣道選手権大会
3月26日、アメリカ・サンタクララ大学体育館。

相手のクセを見抜き、一撃にかけた面

ここ数大会、世界選手権大会における日韓対決ではつばぜり合いが長期化し、近間から離れ切れずに攻防をくり返す試合が続出している。逆に、本来観衆の多くが見たいと思うような胸のすく面技はなかなか見られなかない。それだけに、2000年、アメリカ・サンタクララで行なわれた世界選手権の決勝で、井口清が放った二本の跳び込み面がより際だってくる。

世界選手権に出場するのは、井口にとっては初めてのこと。しかし、今とは違って当時は対戦相手に関するデータはほとんどなかったという。

「その3年前に京都で世界選手権があったときはテレビ中継されていましたので、それは見ました。でもそのときは日本代表なんて雲の上の存在だと思っていましたので、韓国に対しては力が強そう、身体が大きい、といった漠然としたイメージしかなかったですね」

大会2日目の男子個人戦では、日本人同士の決勝戦になった。また、それまでの試合内容そのものを見て、流れは日本にあると感じ、それを団体戦につなげよう、と思った。

カナダとの準決勝では、先鋒の井口が引き分けるなど、苦戦した。しかし、0│1の劣勢から日本は副将、大将と二本勝ち。監督やコーチなどからは、決勝戦を前にまったく言葉はかけられなかったものの、逆転勝ちで得られた前向きな雰囲気を、チーム全体で感じ取っていた。

迎えた決勝戦。井口はこの大舞台でも先鋒で起用された。相手はホ・ウン。これまで何度も世界選手権の韓国代表になっている選手だが、そのことを井口が知ったのは、世界選手権の後である。前の試合で、おそらく対戦するであろうホ・ウンの試合を見たところ、下から打つ小手が特徴的だった。

その小手に対しては、捨て切った面が効果的だ。面を捨て切ることができれば、相手の剣先は二の腕あたりに流れる。が、一瞬でも躊躇して面が遅れれば小手を打たれてしまうリスクのある技ともいえる。

「小手に対する出ばな面」は、普段から稽古しているそうだ。ほかに考えたことは、中途半端な間合で狙わないことで、そのために自らが積極的にひき技も出そうと考えた。

開始からまだ2分が経たないころ、井口が小手で攻めてから構えなおし、小さく一歩、二歩と下がる。相手を充分に引き込んでから面に出ると、ホが狙っていた下からの小手は井口の二の腕に流れていった(上の写真)。

「一本を取った後も、とにかく守ってはダメだと思って戦いました。時間的にもそうですが、もともと自分が攻め続けるタイプですので、さらに攻め続けるという一心でした」

それから1分も経っていない。井口は一足一刀の間合から強烈な諸手突きを放つ。これは一本にならなかったが、縁を切らずに構え合ってから面に跳ぶと、これもみごとに決まった(右上の写真)。相手がカッとして突き返してこようとしたのがはっきり見え、面はがら空きの状況になっていたという。

その後、いったんは同点に追いつかれたものの、大将戦で高橋英明(京都府警)が小手とひき胴で二本勝ちして2│1の勝利。結果的に、韓国に一度もリードを許さなかったのは、井口の二本勝ちが大きかったといえる。

「緊張していたとは思います。でも硬くなるとかではないんです。後ろの先輩方を信頼していたので。先輩方は『王座を守った』という意識が強かったのではないかと思いますが、私は先輩方に助けられ、一生懸命ついていって戦った結果だったので、そのときは純粋に優勝できたうれしさがありました。このときの世界大会では、普段国内大会で打っているような技が、自然に出ました」

井口 清
(いぐちきよし)

昭和44年生まれ。皆野高校、流通経済大学で学び、卒業後は埼玉県警に。
現在は埼玉県警剣道部監督。
世界選手権大会2回出場、全国警察選手権大会2回優勝などの実績を持つ。
教士七段

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