会心の面を解く

近本 巧

平成15年(2003)
第51回全日本剣道選手権大会
11月3日(祝)、東京・日本武道館。

大一番で魅せた鮮烈な二本の面

 近年の全日本選手権大会の中でもこの第51回大会はとくに評価の高い大会ではないだろうか。
序盤戦から好勝負が連発したことはもちろんだが、何よりも決勝戦がすごかった。

 前年度覇者・安藤戒牛と、同じく愛知県警に所属する近本巧手によって争われた決勝は互いに身を捨てた面技を繰り出す正々堂々の真っ向勝負を繰り広げ、両者の放つ一打一打に観衆が大きなどよめきを挙げた。

 この勝負の勝利者となった近本が決めたのは鮮やかな出ばな面二本。
大会の決勝戦、それも全日本選手権ともなれば勝利に執着するのも人情というものだが、「一度打つと決めたら捨て切って打つ」という近本手の強い意志がそのまま表われたまっすぐな二本の面打ちだった。

 一本目の面を奪った直後、開始線に戻るまでの間、近本の心の中に小さな迷いが生じたという。
「一本を決めたあと、ほんのわずかではあるのですが『このまま逃げ切れば優勝できる』という意識が脳裏をよぎりましたが、『そのような気持ちではきっと打たれるな』と。

開始線に戻るまでの間にその迷いを振り払い、『また初太刀の気持ちで行こう』と心がけたことを覚えています」 主審から「二本目」のかけ声がかかった直後、先に攻め込んだのは近本のほうだった。

 最後の決まり手となったのが、写真の出ばな面である。
「意識的には一本目と同じところだったのですが、対する安藤選手からはこちらの出ばなを狙っている雰囲気を感じました。

私のスタイルとしては、勝負をかけたのならばあとは思い切って打つだけです。
結果的に言えることですが、やはり安藤選手も面を合わせてきていましたね。
少しでも躊躇していたならばこちらが打たれていた場面だったと思います」

■近本 巧
(ちかもとたくみ)

昭和45年生まれ。
岐阜県・市立岐阜商業高校から愛知学院大学へと進学。
大学卒業後、愛知府警に奉職。
主な戦績には全日本選手権大会優勝・3位、国体優勝、全日本都道府県対抗大会2位などがある。
教士七段

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